ニレ科

ニレ科にはエノキ属、ウラジロエノキ属、ケヤキ属、ニレ属がある。原色日本植物図鑑(保育社)に示されるニレ科の分類を紹介すると、

A 葉は基部の3脈が目立ち、葉脈は6対以下まれに4-11対のものがある。

 B 葉脈はまっすぐに鋸歯の先に達し、4-11対子葉は幅が狭い・・ムクノキ屬

 B 葉脈は縁辺の内側で曲がり、鋸歯の先に達しない。6対以下

  C 花は1-4が束状につく。子葉の幅は広い   ・・・エノキ属 

C 花は多数の集散花序、子葉は幅が狭い     ・・・ウラジロエノキ属

A 葉は基部の脈が著しくなく、葉脈は、7対以上花被片は多少とも基部合成し、果

実は乾果  

  B 花は単性、果実は痩果様で、翼がない         ・・・ケヤキ属

  B 花は両性、果実は翼化                  ・・・ニレ属

 に分けられる。


 エノキ

日本では、エノキ属には45種とも言われる)あるが、広島市近辺で目にするエノキのほとんどはエノキ属エノキである。せせらぎ河川公園に見られるものもいずれもエノキである。エノキの核果は、9月に褐色から紅褐色に熟す。この果実は小鳥のエサとなる樹ということからエノキと名付けられたと言われるように、鳥のエサとなる。人が食べてると、少し酸味と甘味があって食べられないことはないが、現代の感覚では美味とは言えない。

樹皮は灰褐色で平滑である。1年枝は黄褐色で、軟細毛が密生するが、2年枝となると無毛となり、濃い柴褐色に変わり、小さな灰色の円形皮目となる。

材の木目は美しく、建築、器具材として利用されたが、材質は高く評価されてはいないようだ。 

「榎」は、夏の木の意味で、夏に大きな木陰をつくことからあてられたという。エノキが親しまれたのは、夏の太陽を遮る影を提供するからであろう。昔の街道の1里塚にはエノキが植えられていたそうである。1里歩いて茶屋のあるエノキの大木の木陰でキセルを口に一休み、旅人の姿が目に浮かぶ。


ケヤキ(Zelkova serrata

せせらぎ河川公園には数本の自生と思われるケヤキの大木があるが、流れに沿う遊歩道にも植栽されたケヤキの並木があって、四季それぞれ美観を呈している。ケヤキは、公園、並木、盆栽に人気の樹種である。好まれるのは、箒状の樹形と同時に美しい季節ごとの葉の色である。特に新緑が美しい。したがって、盆栽では新芽が伸び、緑が深くなるとしばしば葉摘みを行い、再度新芽を出させて新緑を楽しみ、整枝する。樹形としては、一般に箒状が好まれる。「箒仕立て」の盆栽を楽しむため、ケヤキの種子を採取するには理想に近い樹形をした個体の種子を選別する傾向にあるため、ますます箒状の形質を持つケヤキが多くできる傾向にあると考える。また、晩秋の黄葉も見事である。葉には基本的な色素であるフラボン、フラボノールが多く含まれ、秋には美しく黄葉する。同地区にやや紅色を帯びる個体もあることから、遺伝的な違いがあるのも知れない。せせらぎ公園のケヤキの巨木は幹回り2mくらいであるが、広島県のベスト10に入る巨木の幹周りともなれば5m内外に及ぶ。

樹皮は灰白色で、ほぼ平滑であるが、老木では樹皮がうろこ状にはがれ、光沢のある褐色を帯びる美しい樹皮模様を見せる。

老木の材は赤みを帯びている上、木目が美しく、さらに狂いも少ないことから家具・建築材、特に社寺の建築材、工芸品、漆器、楽器などに使われる貴重な材である。

特筆すべきは、周防大島の沖合4kmで不慮の爆発により沈没した戦艦「陸奥」の艦頭に光る「菊の御紋章」は、ケヤキ材を彫刻した御紋で、それに金箔を施したものと記載されている。

雌雄同株で、4~5月に葉の展開と共に黄色の目立たない小さな花が開花する。雄花、雌花とも花被は4~6個である。

果実は陵のある核果(乾果)で10月に灰褐色に熟す。

戦艦陸奥の艦首の「菊の御紋」                   陸奥が沈没した周防大島(屋代島)の沖合   



ムクノキ  Aphananthe aspera

 ムクノキの成木の樹皮は、アカメガシワの樹皮と似ている。その文様はメロンの網目状文様を思わせる美しいものである。しかし、老木になると、樹皮はうろこ状にはげ、灰白色平滑のすべすべした樹皮となる。

1年枝は黄褐色で、軟細毛が密生するが、2年枝では軟毛はなくなり、小さな灰白色の円形皮目のある濃い柴褐色となる。

属名のAphanantheは、「目立たない」を意味し、asperaは花を表す。つまり、目立たない花を咲かせる木という意味となる。しかし、木陰に群れ咲く黄緑色の小さな花は、可憐で非常に美しい。 

ムクノキはニレ科ムクノキ属で、ムク、ムクノキ、モク、モクノキ等の呼び名がある。

材は強靭で、天秤棒、建具・器具材として利用されている。そのほか、薪炭としても用いられる。

葉は、互生し、4~10cmの尖頭卵形で、葉脈は、主脈から515本の支脈が全縁にはしり、縁は深い鋸歯となる。葉面には無数の毛があり、紙やすりを思わせる感触がある。象牙、骨董細工の研磨用に利用されていたというから、非常に精巧な研磨に利用されていたのだと考えられる。

 

昭和20年代、竹の水鉄砲と同じ要領でスギの花穂あるいはムクの核果の直径に合う竹筒を使い、筒の中空の空気圧によってスギ、ムクを飛ばす鉄砲をつくり遊んでいた。空気圧を利用した飛び道具である。ムクの核果は成熟するまでは緑色で固く、ほとんど球形であるため、都合の良い飛び道具となる。目などに当たると危険であることからしばしば学校で中止させられた道具ではあったが、子供たちは、晩秋季のスギの堅い花穂を飛ばすスギ鉄砲と並んでムクの核果を飛ばすムク鉄砲を作って遊んでいた。かなり強い威力がある。

成熟するとやや青みを帯びた濃い灰色となる。(昔は)子供が好んで食べていた。口の中に入れると、果肉は、少々甘みがあって、粘性のなくなった干しブドウを思わせる野性的な食味である。種子は、堅く、葉と同様やすりのような感触があった。最近は食べられてはいない。

エノキの種子

ムクノキの種子



クスノキ科

1 クスノキ 

常緑高木で、関東以西の暖地に自生しているが、原産は中国との説もある。しかし詳細は不明である。樹皮と葉に芳香がある。4月に新芽の伸長、新葉の展開と共に一斉に古葉を振るい落とし、若葉色のすがすがしい新緑に模様替えする。また、4月には小さな花が寄り集まって円錐形の房状(複総状花序)につく。12月ころに実は、黒く熟し、翌年の3月頃まで木に残る。太さは直径約5mm程度である。この実を求めてムクドリの大群が騒ぎ飛び交う光景が季節感を感じさせる。

クスノキは誰でも知っているほど日本人にはよく知られた樹木の1つである。教科書に採り上げられる樹木は数多くあるが、とりわけ印象に残るのが「クスノキ」であろう。物資の乏しかった時代の日本では、教科書に多くの「材」に並んで、特殊な「日用品」となる樹木、日本の外貨を稼ぎ出した樹木となればなおさら・・・。また、高校生の化学の教科書には樟脳(ショウノウ)の化学構造式とともに「クスノキ」の名前が出ていた。「クスノキ」は非常に親しみを持たれた樹である。

「クスノキ」 : 「樟脳」(ショウノウ)  の原料

「クスノキ」は今では普通「楠」の文字を使う。しかし 「クスノキ」の「クス」の正しい漢字は「樟」

のようだ。中国では「クスノキ」は「香樟」、「芳樟」と書くという。

「クスノキ」に当てはまる漢字を探すと

「樟」、「楠」、「橡樟」、「樟脳の木」等が見られ、「樟」の字を使われるのが多い。

「橡」(ショウ)とは「トチ、クヌギ」を表す言葉であり、「樟」は訓読みで「くす」である。

 

それでは「楠」とは一体何か?

実は「楠」とは「タブノキ」(クスノキ科タブノキ属)のようである。

 

クスノキは多くの人の心に深く残るシンボルツリーと思われる理由は

・ 神社の神木とされ、各地に大木がある 鹿児島県の蒲生の大楠は圧巻である。

    香りのある虫の付きにくい建材である

    クスノキは「樟脳」(ショウノウ)の原料であり、樟脳はセルロイドの原料である

防虫剤、防腐剤が合成できない時代には、衣料の保管に「ショウノウ」は欠かせなかった。

・ 教科書には「ショウノウ」が採れる木「クスノキ」と「ショウノウ」の化学構造式が載せられていた。

    18世紀末、日本の代表的な輸出品目(米、英にセルロイドの原料として)であった。

    マルコポーロ「東方見聞録」に樟脳は黄金と等価で売買されていたと記されているが・・・

                               (要 再調査)

 

鹿児島県蒲生八幡神社の大クス

幹回り24m余


クスノキ科タブノキ属 Machilus thunberugii 

ひろしま近辺の山にはタブノキは多い。大木となるが、近く、安佐北区可部町勝木の大野八幡神社には直径4.5m、同筒瀬の八幡神社には直径3mほどの大木がある。10年程前には、市民に親しまれている高松山(可部町)の頂上にも4本の株立ちの大きなタブノキがあったが、枯死してしまった。地上1m程の部位に周囲にわたり木質部が剝きだしとなるほどに削り取られていた。シカによる食害である。鳥獣保護は重要法律であるが、逃げることもできず、物も言えない植物の生育環境にも気を配ってほしいと訴えるかのように、2年ほどして1本が倒れ、ついにはすべてが力尽きた。

時にタブノキの巨木に出会う。鹿児島県ではけた外れに大きなタブノキに出会った。

さてタブノキ属はアボガド属ともいう。黒くて小さい実は、アボガドを思わせる味だと言われている。よく見かける樹で、ムクドリが夢中で実をついばんでいるところを見ると、おそらくおいしいのであろうが食したことはない。トカラ列島ではよく食べているとテレビで放映されていたので、今年こそ味見してみたいと思っている。

材 : タブノキの樹皮には粘性があり、線香等の香の結着に利用されている。樹皮を粉末にし、スギ、ビャクダン等の香の材料にあわせて形作る。

     


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タブノキの巨木(鹿児島県)

 

 

 

 

 

 

左タブノキの幹

 

 

 

 

 

 

 

韓国岳近くの参道で出会ったタブノキの巨木



クルミ科

 クルミは親しみを持たれる木のようだ。「この木はクルミです」というと、たいていの人は関心をもって注意深くその樹を観察し、オニグルミの実を見つけると「実がついている」と声に出してはしゃぐ御仁が多い。サワグルミだと「これもクルミ???」と半信半疑。なぜか関心を持たれる樹種と思う。

 広島で最もよく目にするのは、シナサワグルミだと思うが、この樹種は明治15年に日本に渡来したものだそうだ。もちろんサワグルミ属である。市内の並木として植栽されている羽状複葉の木であるため、気に留めておくとよく目にする。苞は翼状に下垂するため、クルミの仲間とは思われないかもしれない。クルミ科にはオニグルミ、サワグルミなどがあるが、並木に利用されているのはシナサワグルミである。

   クルミは人の生活に近い接点がある。


 オニグルミ(クルミ科クルミ属)

樹高は普通7~10mであるが、20~25mに達するものもあるという落葉高木である。樺太から日本列島の谷間、川沿いに分布する。葉は奇数の羽状複葉である。小葉の柄はほとんどない。小葉の裏面には星状毛が密生する。5月のはじめ、長い穂状の雄花が垂れ下がる。直立した雌花花序に7~15の花をつける。風媒花で、4枚の花被片に膨らんだ子房がついており、短毛が密生する角のように赤い2本の柱頭が伸び、飛散する花粉をとらえられる仕組みになっている。せせらぎ公園には大木ではないが数本のオニグルミがあり、実をつける。9~10月には直径約5cm程度の卵球状の果実が熟し、のち落下する。

脂肪分の豊富なオニグルミの種子は食用となるが、殻が非常に硬く、種子は容易に取り出せない。加熱方法など種子をとり取り出すための方法がいろいろ工夫され紹介されている。 

暗褐色の幹肌には縦に割れ目が入っている。せせらぎ河川公園愛好のグループもオニグルミには強い関心を示し、刻々肥大化する果実に話題が移る。誰もがチャイコフスキー作曲のバレー音楽「くるみ割り人形」とその原作であるE.T.A.ホフマンの童話「くるみ割り人形とネズミの様」の空想の世界に惹かれるのであろう。

材は、淡褐色で堅く狂いが生じにくく、割れ目ができないことから、家具、指物の材とされた。とりわけ明治以来は銃床として使用されたため、戦時中には多くが伐採されたという。 


キョウチクトウ科

キョウチクトウ

夏に咲く樹の花としては、まず、「サルスベリ」、「ムクゲ」等が思いつくが、広島では夏の花=原爆の花=「キョウチクトウ」の感がある。

平和公園周辺本川・元安川に沿って、6月から咲き始めたキョウチクトウ。7月末から8月6日には葉は益々緑を深め、灼熱の太陽の下、赤、ピンク、うすピンク、白色の花が咲きみだれて盛りを迎える。原爆投下で廃墟と化した広島の真夏に力強く咲き誇るキョウチクトウであるからこそ「広島市の花」として選ばれたのであろう。まさに、廃墟から立ち上がり、発展を続けている広島市を象徴する花である。今では全く違和感はないが、広島に居を移した当初、広島のお盆の「灯籠」にびっくりしたものである。お盆のお墓を飾る「灯籠」と広島を飾る「キョウチクトウ」は何処か共通性が感じられた。

キョウチクトウという植物には、葉、茎、根の全草に猛毒を含むことから昭和40年代に「市の花としては不向き」と物議を醸したこともある。しかし、「植物に毒物が含まれるのは不思議なことではない」ということからか「広島市の花」として面目を保った。今では市内いたるところに見られる。強勢ではないが、この不屈を象徴する樹木が治水を象徴する大謨碑周辺にも植樹されて、夏を楽しませてくれる。

 

いろんな意味で「防災」にふさわしい樹木かと思う。

 

1 「キョウチクトウ」(Nerium  oleander var  indicum

キョウチクトウ(狭竹桃)は、インドから地中海沿岸原産で日本には寛政年間に中国から渡来した。

枝の先につく花は、花弁の先が5裂した筒状的な釣鐘型の花冠で芳香がある。「キョウチクトウ」とは、葉が竹の葉のように細く、花は「桃の花」に似ていることから命名されたと言われている。

キンモクセイもそうであるが、日本ではキョウチクトウに種子が実っているのを見たことがなかった。トルコ旅行をしたとき、当地のキョウチクトウには多くのマメ科植物のような長い鞘の実をつけていた。なぜなのか

ところが、平成16年、数多くある広島市の平和大通りのキョウチクトウを見て回ると、実をつけているのが1株あった。その後実をつけたものに時々出くわした。

2 「キョウチクトウの特徴」

茎、根に強い強心配糖体(オレアンドリン、ネリアンチン)が含まれており、薬用植物ではあるが、素人にとっては「猛毒」である。

木を燃やすと、毒物は煙にも含まれるという。

3 「キョウチクトウの話題」

・ キョウチクトウの枝に刺して焼いた肉を食べて死亡した。

 ・   キョウチクトウの枝で遊んでいた子供が中毒にかかった。

      イタリア、ギリシャでは「葬式の花」と言もいうそうであるが、日本でも「葬式花」と言う所がある 

  しい。やはり土葬との関連性があるのかもしれない。